宝島
戦後沖縄の状況を嘉手納基地の戦果アギャーの人生に沿って鮮明に強烈に綴った宝島という本を旧正月に一気読みしてしまった。
現代にも続く沖縄の米軍基地問題の始まりとなる戦後のアメリカ統治下の沖縄を、1945年の沖縄戦を生き抜いた若者がどう生きたかを描いた作品で、今まで沖縄の視点から日本やその歴史を見る機会があまりなかったのでもう一つの視点を持つきっかけをくれた、自分にとって素晴らしい一冊になった。
(沖縄戦についてはWikipediaに出典付きでかなり詳細で長いページがあるので興味がある人は一度読んで見るとよい)
あらすじ
アマゾンに書かれているあらすじはこちら:
英雄を失った島に、新たな魂が立ち上がる。固い絆で結ばれた三人の幼馴染み、グスク、レイ、ヤマコ。生きるとは走ること、抗うこと、そして想い続けることだった。少年少女は警官になり、教師になり、テロリストになり―同じ夢に向かった。超弩級の才能が放つ、青春と革命の一大叙事詩!!
戦果アギャーとは戦後まもない頃に頻発していた「基地泥棒」のことで、米軍の目を盗んで基地に忍び込み物資を盗み、街に配ったりしていた人たちのことである。
また主な舞台となる「コザ市」は架空の市ではなく、沖縄島の中心部にある嘉手納基地に隣接する地域の名前で1974年に美里村と合併して沖縄市になった。コザの名前は今も地名のあちこちに見ることができる。
宝島を読んだ感想
著者である真藤順丈氏の「墓頭」を読んでから他の作品も読みたかったので超大作と話題のこの宝島を買って読んでみたら引き込まれた。
背景に大きな違いこそあれ、現在の香港のデモに興味を持っている日本人で沖縄と日本との関係をあまり知らない人はこの宝島を読んだらよいと思う。
沖縄は戦後日本に「返還」され、香港も中国に「返還」された。文化も歴史も全く違う地域が戦後似たような道を辿り、今どのように異なっているのかを比較する上でも沖縄の戦後に何が起こっていたのか、沖縄の人たちはどんな思いで生活しているのか、沖縄の人たちの「日本人」への思いを知ると、普段ニュースで流れている沖縄についての問題も深みをもって捉えられるようになる。
物語で語られる米軍に所属するアメリカ人が起こす事件やコザの暴動など、登場人物の選択や思考に影響を及ぼす事件は全て実際に沖縄で起きた事件であることがわかる。
また、調べていくと物語の中で登場するヤクザの親分など重要キャラクターが実在の人物で、その人生になぞらえられて物語が進行していたことに気づく。(読書後沖縄の歴史についてネットで調べていたら本の中で語られている出来事や人物の一部が実際のものだと発見し驚いた)
この宝島の筋となる物語はフィクションであるが、実際にこの宝島のグスクやヤマコ、レイのように人生を過ごした人が今は年老いて沖縄の地で生活をしているのかと考えると胸が熱くなるし、沖縄に行く機会があればそういった語り部の人たちから話を聞いてみたいとも思う。
現在も沖縄に横たわる問題
この宝島の中には街で酒や薬物、女や殺人などの犯罪問題を起こすアメリカ人とそのアメリカ人を管理し島の人たちの動向を監視する立場にいる二種類のアメリカ人が登場する。
自分はアメリカ留学時代の親しい友人が米軍のそこそこ偉い立場にいて、東京にいた頃は横須賀の基地に入らせてもらって遊んだり宿泊させてもらったりしていた。
横須賀基地近くにある通称どぶ板通りとう飲み屋通りは基地所属のアメリカ人が日中多くたむろしてお酒を飲んだりしているが、現在は軍規定により深夜12時以降の飲酒は処罰されるので夜になると飲み屋街はもぬけの殻のように静かになる。12時前になると軍の制服を着た人たちが厳しい顔で飲み屋街を歩き取り締まりが始まる。
現在は数十年前と比べ状況は改善はしてるだろうが、基地問題や米軍の輸送機やヘリの事故、基地で働く米軍所属のアメリカ人が起こす犯罪などの問題は現在この瞬間にも繋がっている。
日本という国とアメリカを繋ぎ止める物理的なものの一つとして基地があり、日本という国の防衛の要にもなっている。それを享受しているのは沖縄に住んでいない日本人であり、「割を食っている」のような表現以上の悲惨な体験をしている沖縄の人たちの歴史や思いをまずは知ることが大事なのではないかと思う。2020年になったいま、ただ単純に能天気に沖縄に旅行に遊びに行っている場合ではない。
著書のインタビュー記事をAERAで発見したのでリンクを載せておく。
沖縄には「力強い民意」がある 直木賞作家が見た基地問題の現状とは?
https://dot.asahi.com/aera/2019031900093.html?page=1
宝島、ぜひ多くの人に読んで欲しい一冊。
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