台湾におけるインターネット検閲とWhoisにおけるドメインステータスコード (domain status code) について [31t.tw 事件から]

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台湾と中国政府とのサイバー戦争

最近日経でこんな記事が出ていた。

台湾、中国ネット企業を締め出し 世論操作を警戒   総統選控え、動画サイトなど規制
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44482560X00C19A5FFJ000/

サイバー戦争でのネット上の軍隊のことは「網軍(wangjun)」と呼ばれていて、世論コントロールのために大量のサクラを投入して人力で特定の所属グループの得になるような意見やプロパガンダをなどを地道に書き込んで反対グループに所属する人たちの主義思想に影響し、自分のグループの理になるように政治や事業を運んでいく操作をすることを指す。

直近では現在の高雄市の市長である韓國瑜氏が無名であった選挙期間中に台湾で一番有名な女優よりgoogle trendで検索数を上回ったり、ネット上で極端にポジティブな意見があったりなどした件で網軍だと言われていた記事も読んだことがある。

こういった個人を特定できない魑魅魍魎を完全に遮断できないため、そのプラットフォームになりうる大陸側のサービスを遮断しようとするのが今回の記事で述べられている台湾側の動きである。

台湾を例にすると、「中国の台湾介入に反対する若者に対して台湾人に扮した中国側の人が何故中国は良いのかを書き込みまくりだんだん台湾の世相を変えていく」という感じ。日本でいうステルスマーケティングを国単位で戦略的にやるイメージ。

こういった話をインターネットの仕組みや自分たちが現在使用しているインターネットの仕組みを作り運営している団体と関連付けて知るとより物事が興味深くなる。

ウェブサイト “31t.tw” について

最近だと台湾の若者向けに中国の人が作成した「31t.tw」というウェブサイトが台湾側により遮断されてちょっと話題になったので紹介したい。

31t.twが台湾で話題になり、中国側の政治的プロパガンダを台湾に広めようとしたということで政府によって即遮断された。


 

31t.twのWhois情報

Whois とはドメイン名の登録情報を確認するプロトコルのことで、ターミナルで “whois <ドメイン名>”と入力するとプライバシー情報が排除された範囲で確認することができる。(2018年前半までGDPRが施行されていなかったので、あるレジストラで登録されたドメイン名のWhois情報を見るとプライバシー情報も含めて確認することができた)

31t.twのWhois情報はこんな感じ。注目すべきはドメインステータス (Domain Status)の箇所。

Domain Name: 31t.tw

   Domain Status: clientRenewProhibited,clientUpdateProhibited,clientDeleteProhibited,clientTransferProhibited,serverHold

   Registrant:

      dandan teng  641060106@qq.com

   Administrative Contact:

      dandan teng  641060106@qq.com

   Technical Contact:

      dandan teng  641060106@qq.com

   Record expires on 2020-03-20 (YYYY-MM-DD)

   Record created on 2018-03-20 (YYYY-MM-DD)

   Domain servers in listed order:

      ns13.domaincontrol.com      

      ns14.domaincontrol.com      

Registration Service Provider: GoDaddy

Registration Service URL: http://www.GoDaddy.com/

Provided by NeuStar Registry Gateway Services

ドメインステータスコード (Domain Status Code) について

ドメインステータスコードとは英語では”Extensible Provisioning Protocol (EPP) domain status codes”でEPP status codeとも呼ばれ、ドメイン名の登録状況の詳細を表すコードである。登録されたドメイン名には一つ以上のドメインステータスコードが割り当てられることになる。

ドメイン名の登録の期限が近い場合、移管ロックがかけられている場合、何かしらの制限が書けられている場合など、様々なドメイン名の状況を示すのがこのドメインステータスコードである。

clientXXX v.s. serverXXX

ドメインステータスコードでもう一つ知っておかないといけないのは、client code server codeの存在。

clientのステータスコードはレジストラによって設定され、serverのステータスコードはレジストリによって設定される。(レジストラ… ドメイン名を登録するサービスを提供している会社、Gandi.netやお名前.comのこと。レジストリ… 特定のドメインエクステンションの販売元でそのデータベースを管理している会社、.jpであればJPRS、.comであればVeriSign。)

ステータスコードは、”client” + “xxxx” と “server” + “xxxx” の組み合わせで作成される。

例: gegegegensan.comのwhois

Domain Status: clientTransferProhibited https://icann.org/epp#clientTransferProhibited

このブログのドメインステータスコードを見ると、”clientTransferProhibited”とある。これは「このドメイン名を移管することはできないとレジストラ側で設定されている」という意味。移管をしたい場合はこの移管ロックを解除するためにレジストラのウェブサイトで設定を変更するか、レジストラに連絡を取る必要がある。

ステータスコード (Status Code)の例

主なステータスコードで一般的に見るものは以下。全てのステータスコードを確認したい場合は上のリンクを確認してください。

addPeriod

ドメイン名が登録されて数日間このステータスコードが使用され、ドメイン名自体に問題はない。この期間中にレジストラがドメイン名を削除すると、ドメイン名にかかったコストがレジストリからレジストラへ返金される可能性あり。

ok

ドメイン名が登録され、保留中のオペレーションや制限などもない正常な状態。

clientTransferProhibited

ドメイン名を現在のレジストラから別のレジストラに移管できないようにレジストリ側でのロックがかかっている状態。移管をしたい場合はレジストラのウェブサイトで設定解除をするかお問い合わせをする必要がある。

serverHold

レジストリによって設定されたステータスコードで、ドメイン名がDNS上で有効化されていない状態。要するにドメインエクステンションのおおもとであるレジストリが直々に「このドメイン名は使ってはダメ」と言っている状態。

“31t.tw” のドメインステータス

31t.twのドメインステータスは、Whois情報を確認すると以下が設定されている。

   Domain Status: clientRenewProhibited,clientUpdateProhibited,clientDeleteProhibited,clientTransferProhibited,serverHold
  • clientRenewProhibited
  • clientUpdateProhibited
  • clientDeleteProhibited
  • clientTransferProhibited
  • serverHold

ここで一番重要なのは “serverHold” が設定されているということ。TWNIC(.twのレジストリ)によってこのドメイン名がDNS上で有効化されていないため、ドメイン名が使用出来る状態ではないということ。

 

“31t.tw”の短い一生

まとめるとこんな感じ。

  • 2018年3月20日… ドメイン名 31t.twが登録される
  • 2019年3月13日… Facebook上でこのウェブサイトのことが話題になる
  • 2019年3月13日… NCC (National Communication Commission)がウェブサイトを遮断する権限はないという
  • 2019年3月14日… 国家安全局 (National Security Bureau, R.O.C)がウェブサイトを遮断する
  • 2019年3月14~15日… TWNIC (.twのレジストリ)が31t.twに “serverHold”にする

安い金額ではあるがドメイン名の代金を手に入れたTWNICとGodaddy(レジストラ)はラッキー、ドメイン名を登録したが使用できなくなった641060106@qq.comさんは残念でした、という結果になった。

ちなみに、.cn (中国のccTLD)を登録すると

ちなみに、.cn(中国のccTLD、日本でいう.jpなど)の登録には身元確認のためのIDの提出が必須になる。レジストラのウェブサイトで.cnを使用したドメイン名を登録してIDを提出しない場合、ドメインステータスは “serverHold” (レジストリ側で停止処理) となり、IDの提出後は “pendingVerification” となりIDの承認待ちとなる。

また、.CN繋がりだとあまり知られていないが、”~~~.tw.cn”というセカンドレベルエクステンションでドメインを登録することもできる。

参考:
CNNIC FAQ

まとめ

簡単にまとめるとこんな感じ。

  • 2020年の総裁選に向け、台湾は中国側の政治介入を一層警戒している
  • 最近では 31t.tw という中国側が作成したウェブサイトが台湾によって遮断された
  • 確認するにはWhois情報のドメインステータスを見るとよい
  • 31t.tw はserverHoldというドメインステータスで、レジストリ側が直接ドメイン名を使えない状態にしている

 

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